『歌集 黒い光 二〇一五年パリ同時多発テロ事件・その後』
松本実穂
(角川書店)
写真とともに綴られた歌集。
松本実穂さんは高校時代の級友です。お互い自分のことで精一杯で音信を交わしていない時期も長くありました。ご家族でフランスに17年あまり駐在されていたそうです。パリの同時多発テロが起こってからの情景や心に立つさざ波を、市井の人の目線で短歌に編み、それが一冊の本にまとめられました。
作者の意図は違うとしても、タイトルから私は夏目漱石の「こころ」を思い出します・・。光のように差してくる一筋の暗さ、心を照らす闇。モノクロームの写真からそんな感じを受け取りつつ本を開きました。
好きな歌はいくつもあって選びにくいのですが、紹介してみましょう。
『追悼、愛国、右に倣えといふごとくトリコロールの顔が増えゆく』
『はだか木にぱくりぱくりと残りゐる柘榴あるいは昨日のわたし』
実はこれ以外に一番好きな歌がひとつありますが、それは本で読まないと良さがわからないので、内緒にしておきます・・
ページをめくると、カメラのシャッターをイメージさせるような鋭くて速いスピードの言葉たちが次々と駆け抜けていきました。
Amazonなどでも買えるそうですので、興味のある方はどうぞお求めになってみてください。
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実穂さんは高校時代は確か運動部で、太陽のように明るいイメージのする人でしたが、いっぽう、ノートに何か詩や小説?を書いたりしているのも見かけたことがあります。
その頃から感受性のみずみずしさが多いに伝わってきていたものの、この歌集から受けたナイフのような切れ味は、当時の私は想像することができませんでした。でもその時すでに彼女の中にあったに違いありません。
充分な大人になって表現されたものを、充分な大人の自分が味わえる、ということ・・ 時の成熟に幸せを感じています。
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